先進医療~2019年度の実績報告から~
2019年12月5日に実施された、先進医療会議において2019年度の実績が報告されました。2019年6月30日時点で実施されていた先進医療技術数は、先進医療Aが29種類、先進医療Bが59種類、計88種類です。
先進医療は、厚生労働省が指定した新しい医療技術の有効性、安全性などを評価している段階の医療です。治療効果のみならず、医療を受ける人の安全性を確保し、負担の増大を防ぎ、治療の選択肢を広げ、利便性を向上する観点から、随時新しい技術の追加や削除、保険収載など更新されています。それでは、2019年度の先進医療の動向について詳しく見ていきましょう。
※当記事内の表およびグラフは「厚生労働省【先進医療会議】令和元年度先進医療技術の実績報告等について(2018年7月1日~2019年6月30日)」より作成しています。
先進医療人患者数の推移
2019年度(2018年7月1日~2019年6月30日)は、先進医療費の総額が約297.5億円、患者数が39,177人と、過去最高となっています。(図表1)
この要素として「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」の動向が関係しているようです。
2019年度の先進医療実施件数ランキング
図表2は2019年度の先進医療実施件数ランキングです。
2008年より先進医療とされていた「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術(白内障手術)」は、超高齢社会を背景として、年々増加しています。しかし、治療としての有効性・効率性が十分に示されておらず、費用、一定の不具合例なども考慮した上で、先進医療から除外が適当と評価されました。(令和元年12 月5日開催第81 回先進医療会議において)
粒子線治療
粒子線治療は、1980年代後半に臨床試験として開始され、2001年に陽子線が、2003年に重粒子線が先進医療として評価を受けるようになりました。研究が数年にわたり繰り返され、2016年及び2018年度には、4疾患が先進医療Aを終了し保険収載されています。
先進医療Aにおいては、日本放射線腫瘍学会にて、適応症(治療により効果が期待できる病気・症状)と国内の実施医療機関が統一して治療ができるような方針を作成しています。それにより得られた結果を全例登録し、評価可能な体制で粒子線治療を実施しているようです。2018年7月1日~2019年6月30日までの粒子線治療疾患別患者数を図表3に示します。
粒子線治療全体での男女比は7:3で、男性の比率が高く、年齢の中央値は70.0歳となっているようです。治療の実施件数は、肝胆膵腫瘍が44.0%、続いて肺・縦 隔(じゅうかく)腫瘍が20.3%となっています。治療の完遂率は92.8%で、予定治療が非完遂の理由として、原疾患による状態の悪化16例(0.8%)、治療の有害事象(※1)によるもの12例(0.7%)、治療に関連しない有害事象2例(0.1%)であったようです。
※1:有害事象とは、医薬品や医療機器等が使用された患者に生じた全ての好ましくない、あるいは意図しない兆候、症状、またはその病気をいう。
粒子線治療は、有効性、安全性が期待される反面、費用面の負担が大きい治療です。先進医療会議では、粒子線治療を必要とする方々が、この治療のメリットを受けられるよう、早く保険収載できるよう、研究を進めてほしいと強く要望されていました。
がんゲノム医療
近年注目を集める「ゲノム医療」は、2018年に遺伝子パネル検査が先進医療として新規承認され、翌2019年6月には2つのパネル検査が保険収載されました。近年、血液検査などで得られる体液などから、遺伝子(ゲノム)情報による診断や治療効果を予測する技術の研究が、世界中で進められています。第3期がん対策推進基本計画においても、「がんゲノム医療」の推進が掲げられており、大きく期待されている技術の一つです。「ゲノム」について図表4に示します。
図表4のように、遺伝子情報をもつ「ゲノム」は、A4用紙両面印刷500枚入りの箱が3,546箱に相当するほど膨大な情報量です。今後も新たなパネル検査が新規技術として届け出され、評価されることと思います。これだけ膨大な情報量の遺伝子パネル検査ですが、保険適応となっても、その技術料は合計56万円(5万6,000点として算定)と高額です。1割負担で5万6千円、3割負担で16万8千円になります。がんゲノム医療時代における経済負担軽減に向けた各保険会社の取り組みも今後注目したいポイントだと思います。
日本では、国民皆保険の下、「有効性や安全性が確認された医療であって、必要かつ適切なものは保険適用する」ことが基本的対応となっています。情報社会の中、医療の情報が身近にあふれています。しかし、どんどん高度化する医療は、普段なじみのない言葉が多く、理解することがとても難しいのが現状です。
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