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【治療×お金について】知っておきたい「先進医療」

保険ワールドの阿曽です。

阿曽 佳澄

知っておきたい「先進医療」のキホンと考え方

「先進医療」とは、厚生労働大臣が定めた公的医療保険の対象にすべきかどうかを評価する「評価療養」の一つで、高度な医療技術を用いた療養のことです。
保険セールスに携わる方であれば、先進医療に関する基本的な知識はお持ちでしょう。ただ、お客さまに対して、「代表的な先進医療として粒子線治療があります。費用は全額自己負担で約300万円かかりますが、先進医療特約を付加しておけば給付金でまかなえます」といった程度の説明では不十分です。
近年の先進医療は、実施医療機関数や患者数が増加傾向にあり、粒子線治療の一部が先進医療から外れて保険収載されたり、ゲノム医療が先進医療に仲間入りしたりするなど、その動向には注目が集まっています。
お客さまから「先進医療特約を付加した方が良いのか?」とアドバイスを求められた際、しっかりと正確な情報をお伝えできるよう、先進医療の概要、メリット・デメリット、先進医療特約や標準治療との違いなどについて整理しておきましょう。

「先進医療」が導入された経緯とは?

そもそも、先進医療という制度がどうして設けられたのかご存じでしょうか?
日本では、原則として、保険診療と保険外診療(自由診療)を併用する「混合診療」を禁止しています。そうなると、医療機関では保険診療として認められた医療行為しかできず、医療が硬直化してしまう可能性も否めません。

また、患者も先進的で試験的な医療がすべて自費となれば、負担が増すばかりです。
そこで1984(昭和59)年、健康保険法改正によって「特定療養費制度」が創設されました。
ここから先進医療の歴史がスタートします。
新規医療技術について技術料の徴収が認められる「高度先進医療」として、自由診療と保険診療の併用が可能になったのです。
ただ、徐々に項目が増えるにつれ、「差額ベッド代」のように患者の選択によって選ぶ追加サービス的なものと、高度で先進的な医療技術等が混同するようになってきました。
そのため、2006(平成18)年10月、特定療養費制度は廃止。新たに「保険外併用療養費制度(以下、「保険外併用療養費」)」として名称変更され、「評価療養」と「選定療養」の2つに分けられたのです。
前者は、新しい医療行為について将来の保険適用を検証するためのもの。後者は、保険適用を行わないものという位置づけとなっています。
そして、従来の高度先進医療もこの改正で改編され、先進医療として一本化されたわけです。(【図表1】【図表2】参照)。

「先進医療」と「患者申出療養」の違いとは?

現在の先進医療は、おもに未承認、適応外の医薬品、医療機器の使用を伴わない「第2項先進医療(先進医療A)」とこれらの使用を伴う「第3項先進医療(先進医療B)」に分類され、2018(平成30)年10月1日現在で92種類が認められています。(参考:『先進医療の基礎知識』https://t-pec.jp/ch/article/151
さらに、2016年(平成28)年4月の改正では、保険外併用療養費として、先進医療と同じく保険適用の可否を前提とした「患者申出療養」が加わりました(【図表3】参照)。

患者申出療養は、名前の通り、患者からの申し出を起点として審査を行い、身近な医療機関で先進的な治療を受けることができる制度です。
先進医療との違いは、審査期間や対象となる技術、実施医療機関などが挙げられますが、技術料部分が全額自己負担である点は同じです。
ただし、適用となる医療技術は、先進医療に比べて少なく、2018(平成30)年10月10日現在で5種類、実施医療機関14件となっています。
患者申出療養については、まだ認知度が低く、先進医療と混同しているお客さまも多いようですが、後述する「先進医療特約」では、患者申出療養は保障されません。別途、患者申出療養を保障する民間保険の特約に加入する必要があります。
このように、先進医療や患者申出療養は、患者の治療の選択肢の幅を広げ、利便性向上を図る目的で導入されました。
これらの経緯を知れば、その内容が随時見直されることもご理解いただけるはずです。

先進医療にかかる費用とおもな医療技術とは?

先進医療の最大のメリットは、先進的で高度な医療が受けられるという点でしょう。一方でデメリットは、受けられる医療機関が限定的である点やかかる費用が高額になりがちな点です。
とくに費用については、先進医療を受けた場合、全体にかかる総医療費のうち、診察料・検査料・入院料といった通常の治療と共通する部分は保険適用となりますが、先進医療の技術料などは全額自己負担しなければなりません。
ただし、すべての先進医療が数百万円単位というわけではなく、数千円~数万円で受けられるものもあります。
以下の図表は、先進医療Aと先進医療Bで、それぞれ実施件数が多かった先進医療の一覧です(【図表4】【図表5】参照)。

最も多い「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」は、白内障の治療と同時に老眼も治療できるという一石二鳥な治療法です。費用は約58万円で、実施している医療機関数も500件以上です。
がん治療の一つである重粒子線治療や陽子線治療だけでなく、先進医療ではどのような医療技術が行われているかなど、最近の傾向を把握しておくことも大切です。
※年間実施件数の多い多焦点眼内レンズや重粒子線に関する詳しい説明は、以下の記事よりご確認いただけます。
・『先進医療~2016年度の実績報告から
~』https://t-pec.jp/ch/article/2
・『【動画】5分でわかる重粒子線治療』https://t-pec.jp/ch/article/4
なお、先進医療の自己負担分については、税金の還付が受けられる「医療費控除」の対象となりますが、公的医療保険の「高額療養費」は対象外となっている点も見落としがちですのでご注意ください。

先進医療の費用をカバーする「先進医療特約」

高額な先進医療の自己負担分を補てんする役割を担うのが、民間保険の「先進医療特約」です。
現在の主流は、先進医療の技術料相当額を支払う実損てん補型で、通算支払限度額についても、当初の500万円から順次引き上げられ、上限2,000万円とする商品がほとんどです(商品によって異なる。1療養当たり500万円などの限度額を設定している商品もある)。
保障期間は、終身型と定期型があり、今後、先進医療が拡充され、給付の発生率が高くなれば、保険料も高くなる可能性が出てきます。その点では、終身型の方がオトクと言えるかもしれません。
最近では、病院までの交通費の実費・宿泊費の費用(上限1泊につき1万円など)や、先進医療の技術料相当額の10~20%または一定の金額(5~15万円)といった一時金が給付される商品もあり、差別化を図っています。
さらに、医療保険やがん保険などに特約として付加するのではなく、単体で加入できる「先進医療保険」も登場。年齢を問わずワンコインで加入でき、先進医療に備えておきたいけれども、既存の保険商品に中途付加できない方のニーズに応えています。
また、保険会社が医療機関に先進医療の費用を直接支払う「直接支払制度」を実施している保険会社も増えてきました。
基本的に、民間保険の保険金・給付金は後払いが原則ですが、この制度が利用できれば、患者は、高額な先進医療の費用を立て替え払いする必要がありません。

「先進医療特約を付加した方が良い?」と言われたら

先進医療特約は、毎月の保険料が100~200円程度と割安で、付帯率も高くなっています。ある損保系生保の2017年度の医療保険の先進医療特約付帯率は94.7%だそうです。
しかし、先進医療が受けられる確率の低さや先進医療の医療技術が将来変更する可能性があることなどを理由に、先進医療特約を付加するのは無意味である、といった意見もあります。
また、「先進医療は、” 夢の治療 ”ではなく、あくまで実験段階の医療技術であり、先進医療よりもまず標準治療を検討すべきだ」といった、そもそも先進医療に対して否定的な見解をお持ちの医療者もいらっしゃいます。
いずれも、もっともなご意見だと思います。
たしかに、保険診療で受けられる「標準治療」とは、これまで多くの患者を対象に行われてきた臨床試験の結果などから、科学的根拠(エビデンス)に基づき、現在利用できる最も有効性と安全性が裏付けされた治療です。
医学的知識のない人からすると、なんとなく、先進医療=‘夢の治療’とイメージしがちですが、医療において、最先端の治療が最も優れているとは限りません。
最先端の治療は、開発中の試験的な治療として、その効果や副作用などを調べる臨床試験で評価され、それまでの標準治療より優れていることが証明・推奨されれば、その治療が新たな「標準治療」となるのです。
ですから、先進医療特約を検討しているお客さまに対しては、まず先進医療と標準治療の違いをしっかりと認識していただくこと。先進医療は万能ではなく、過度な期待を持つのは禁物であること、先進的で高額な医療にかかるコストとアウトカム(成果)について冷静に見極めることが必要であるとお伝えしましょう。
その上で、お客さまが、万が一の時に治療の選択肢の幅を広げたいとお考えになるなら、FPとして、先進医療特約を付帯する意味と役割はあると考えています。

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